自分の、悲鳴にも似た声が聞こえた気がして、目を覚ました。
外はまだ暗く、夜も空けていないらしい。
「・・・何て、嫌な、夢・・・
あぁ、この人のせいね・・・」
何かと思えば、横で眠るその男が紗羅の手をきつく握っていた。
「どうりで、あんな夢を視るわけだわ・・・」
この男と、幸村兄様の、決着の時を、夢で視た。
二人とも、それは晴れた笑顔で、とても楽しそうだった。
二人が、己の総てを刃にのせて、真正面からぶつかり合って・・・
そこで、目が覚めてしまった。
「っもう・・・貴方のせいですからね!!」
中途半端に目覚めてしまった事への怒りで男の手を振り解きそうになり、寸前のところで思い留まった。
過去に、男の睡眠を邪魔して、碌な目に遭っていない事を思い出したからだ。
あるときは、無理やり舞を舞わされたり、またあるときは、体力が尽きるまで剣の相手をさせられたり・・・。
おまけに、もれなく嫌味も付いてくる。
紗羅は一つ溜息を零して、少し起き上げた体を再び横たえた。
「・・・絶対、幸村兄様が勝つに決まってる、そう、決まってるのに・・・
どうして、こんな思いを抱いてるのかしら・・・」
眠ったままの男に視線を向ける。
整った顔立ち
漆黒の髪
眼帯を着けたままの、右目
「・・・ねぇ、どうしてかしら?」
(今なら、)
いつも心の片隅にある、その思いが溢れだした。
紗羅の短刀は、いつも通り枕元に置いてある。
少し手を伸ばせば、簡単に取る事ができる。
少し、手を伸ばした。
刀の柄が軽く指先に触れ、僅かに躊躇ってから其れを取った。
慣れ親しんだ、ひんやりして鈍く光る刃。
手にしっくり来る、この感触。
(これが、わたしの、)
寸分違わず、首を狙った。
「Stopだ、紗羅」
「あっ・・・・!」
男は、簡単に紗羅から短刀を奪った。
「ったく・・・危なっかしいな」
かちり、と鞘に刃が収められた。
「いつから、気付かれていらしたのですか?政宗様」
「お前が俺の顔を眺めてるときから」
「ならば、言ってくだされば良かったのに・・・」
「あぁ、口付けでもして目を覚まさせてやれば良かったな」
恐ろしいほど冷たい目をしている政宗を、紗羅は直視できなかった。
だから、貪られるままに身体を彼に任せた。
「首を、狙ってたんだろ・・・?」
僅かな呼吸の間に問われても、答えるにはあまりにも短すぎて。
答えたくても、心の中がぐちゃぐちゃで。
幸村兄様のために、政宗様を殺したいのに
でも、幸村兄様は政宗様と闘いたがっていられて
政宗様の首は、幸村兄様がお取りになられるはずだと、分かっているのに
あの夢が、あまりにも鮮明すぎて
どうしてだか、政宗様に死んで欲しくない等と思ってしまって
もちろん、幸村兄様にも死んで欲しくなくて
決着が着かなければいいのにと、願ってしまって
あまりにも、矛盾した思いを抱いてしまって
もう、分からない
「・・死なないで、って・・・」
「なら、どうして俺の首を狙った」
「・・わからな、っい!!分からないのよ!
それが、わたしの、やくめ、だからっ・・・!
貴、方の首を、取る、事が・・・ゆき、むら兄さまの、ためにっ!!!
でも、」
「でも?」
貴方は意地悪げに口の端を持ち上げて笑った。
「貴方は、兄様に、倒されるべきで、でも、わたしは・・・貴方にも死んでほしくなくて・・・っ!!」
それを聞いた政宗は、少し驚いたような表情をして、そして満足そうに笑った。
紗羅が、自分を想ってくれている。
彼女の中の一番は変わらずとも、やっと自分も意識してもらえた事に対する、満足。
そして、自分の心が分からなくなっている紗羅を抱ける、優越感。
やっと、
「分かってるじゃねーか。
そう、この首は真田幸村との決着が着くまで、誰にもやらねぇ。
だから、渡せねーな」
「分かって、ますっ・・・・!!!」
(自分の矛盾くらい、分かってる。でも、わたしは)
(あと少し、もう少しで紗羅はきっと俺に堕ちる)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後半ぐたぐたでごめんなさーい
PR